1990年(平成2年)

五〇周年に寄せて/松永逵一 -Michikazu Matsunaga-

年月を経るごとに新宿は大きく様変わりして来た。しかし、『どん底』は昔のままそのままに今も有る。それが嬉しい。不思議と落着く場所でもある。店に入れば懐かしい人に巡り合うことも。いや、会えなくても昔を知る人がいる。それで嘗くの常連達も、又、訪ねて来れるのである。旧い常連達が辿れる店、それが『どん底』である。

東京を離れてはいるが、情況の際は何かと時間を割いては新宿へ、『どん底』へと今だに顔を出す。誰かに会いに。

五〇周年御目出度うございます。

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峰岸徹 -Takanori Yamguchi-

もう何年になるのだろう。私が初めて新劇と云う名前を知り俳優養成所に入所したのは。その時に一三期生の卒業公演がたしか平田先生演出の『どん底』だった。えらく話題になっていた。私は見てなかったのに、しかしその雰囲気には充分にしたれた。その頃行ってた店が新宿の『どん底』だったからである。店の三階からは常にその“夜でも昼でも〜”この歌が聞こえてきたからである。皆酔っていた。酒に、この雰囲気に、不思議な感じがした。『どん底』の近所には何軒か行きつけの店があったが今はその『どん底』だけが我々の歴史をかかえてかまえていてくれる。金がなくても何故かかよっていた。我々の青春の酒の味である『どん底』は、あいちゃんの笑顔は三〇数年前も今も変わらない。店の造りも変わらない。昔がだんだんなくなっていく今『どん底』よ、もっともっと歴史をつみあげていってもらいたい。そしてかたりつなげていってもらいたい。

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わが青春、我がどん底/大森誠 -Makoto Omori-

『どん底』との出会いは、早いもので、もう三六年になろうとしている。

昭和四〇年、株式会社双葉社に入社して先輩のK氏と共に行ったのが最初である。その当時、一人暮らし九州熊本からのさびしがり屋にとっては、毎日でも顔を出す、楽しい場所になっていた。
それも、なせか相川氏のカウンターに座って飲んでいた。
まぁ、お互い九州出身という事もあったのかなと思っている。

この三六年という長い年月の中で、何といっても一番の思い出は、今年結婚三〇年を迎えた女房との初デートが、この『どん底』だった事と思う。
だけど、連れて行ったはいいが、座った周りは悪友ばかり。云う事といえば「あれ、大森、昨日の女はどうしたの?」等々、爆弾を入れたがる連中ばかり・・・。
でも、その当時を振り返ると、色々と、楽しい思い出ばかりが、今でも心に残っている。

「我が青春 我がどん底」最近は、行く回数もめっきり減りはしたが、いつまでも青春まっ只中の気持で、『どん底』がいつまでも続きますように!!

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